前記事の分析時にarXiv論文のソースファイルを取得したので、bibファイルを用いてarXiv論文内で引用がどのように行われているか分析してみた[1]。結果として注目論文を引用した論文が出るまで2-3か月というスピード感、および、fugumtのscoreによる判別力が高注目論文でROC AUCで0.8を超えまずまずの水準であることが分かった。
分析と結果
分析は以下のように実施した。bibファイルを用いて行っているため実際に本文引用されているかは保証していない[2]。また分析対象はAI関連かつソースファイルを取得可能な論文に限られる点にも注意が必要である。
- 2024年1月から2025年12月までのarXiv論文についてそのソースを取得し、bibファイルを抽出する[3]。
- bibファイルからarXiv IDを抜き出す。
※ このIDを引用された論文とみなす[4]。 - 引用状況について、発表された論文がどの程度前の論文を引用しているかを分析する。2024年1月から2025年12月のarXiv論文が引用した論文について、被引用論文の発表時期をヒートマップで表す。
- 2024年1月から2024年12月に発表された論文についてそのスコアと一定期間後の引用数を集計し、スコアが引用数の予測に役立つかを分析する。
arXiv論文の引用状況
縦軸を論文発表月、横軸を被引用論文の発表月としてその数を集計、全引用数からの割合を算出すると下図のようになる。赤枠になっているのは論文発表月=被引用論文発表月になるマスであり、その右にはタイムラインの関係で論文は出ていないはずである[5]。(ヒートマップには2025年のデータも含めて描画している)

論文の被引用回数を集計すると一部の論文が突出して引用されている。それがうっすらと縦線が見える理由である。例えば2024年10月(横軸=2410)に見える縦線には[2410.21276] GPT-4o System Cardが、2025年5月(横軸=2505)に見える縦線には[2505.09388] Qwen3 Technical Reportが大きく影響している。
縦線が濃くなっていく過程(=注目論文の引用数が増えていく過程)を見ると、上記のような影響度の高い論文が出てからだいたい2-3か月でそれらを引用する論文が発表されているようである[6]。
fugumt scoreの判別力
fugumt scoreの品質を検証するため、短期間(論文発表後3か月)、長期間(論文発表後12か月)でスコアとその後の引用数の関係を分析した。結果として発表後3か月で高い引用数になる論文をスクリーニングする上で一定の効果があることが分かった。
下図のように長期間でもスコアと平均引用数はまずます良い関係にありそう[7]。
※スコア100超は前述のヒートマップで線が見えるような極めて引用数の多い論文が含まれるので注意が必要(もっともそれを予測できているともいえる)

- == 分析対象期間: 3_months (公開から 3 ヶ月以内) ===
- データ数 (n): 107,281 件
- ROC-AUC (被引用数 > 0): 0.6520
- ROC-AUC (被引用数 >= 10): 0.8100
- 10回以上引用された割合: 1.08% (1,159件)
- === 分析対象期間: 1_year (公開から 12 ヶ月以内) ===
- データ数 (n): 107,281 件
- ROC-AUC (被引用数 > 0): 0.6566
- ROC-AUC (被引用数 >= 10): 0.7528
- 10回以上引用された割合: 9.86% (10,576件)
所感
bibファイルからarXiv内の引用関係を分析してみた。現状、重要な論文が出ると3か月程度でその論文の引用数が増加するようである。国際会議を待てない現状に沿った結果になっていて、AI研究のスピード感がすごいことが分かる。
論文を探すうえでは当初3か月程度はfugumt scoreのような代替指標が必要になるかもしれないが、それ以降は引用数を使ってもよさそうに思えた。1年程度すれば国際会議発表を引用する事例が支配的になるはずで短期、中期、長期で指標を変えるのがよさそうである[8]。
脚注
[1] あくまでarXiv内の分析となっている。国際会議等で発表後はそれを引用することが多いため参考程度の情報。もっとも3か月というスピード感ではarXivを引用することが多いと思われるので実態には近いと思っている。
[2] 引用していないとしても参照していることは確かで意味はあると思っている。
[3] 発表月の判定はarXiv ID(.の前の4桁の数字)で行っている。
[4] 主要論文についてはこの処理で引用数として概ね妥当な数が出ることを確認している。
[5] 実際はID抽出時のノイズやバージョン差異の状況などにより0にはならない。が概ね良い結果になっている。
[6] 肌感にも合うが本当にスピードが速い。
[7] ROC AUC > 0.75はあるものの短期に比べROC AUCが低くなっている。これは国際会議を通した引用等によってarXivを参照することが減っていくことと整合的に思える。
[8] 短期は3か月未満、中期は半年程度、長期は1年以上を想定している。